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ロシアのウクライナ侵攻を受け、人権規範に改めて注目が集まっている。今年2月に『人権と国家』(岩波新書)を出した政治社会学者の筒井清輝さんに話を聞き、人権の中でも重要な課題である避難民については、政治学者の宮井健志さんに寄稿してもらった。(文化部 前田啓介)
権威主義国「リベラル」に抵抗 企業の経営基盤にも影響…筒井清輝さん
ロシアのウクライナ侵攻は、侵略行為を認めないという国際社会の原則を完全に無視した衝撃的な行為だった。ひどい人権侵害も行われているのに、国際刑事裁判所の調査団を派遣するのが精いっぱいで、常任理事国が暴れだすと国連に止める
重要なのは、ロシアの侵略が、リベラルな人権と民主主義を掲げる西側諸国と、それに抗するロシアや中国を中心とする権威主義勢力との対立の中で生じたということだ。ロシアの指導者は、自分たちの裏庭だと思っているウクライナで民主主義が定着し、じわじわとロシアにも人権規範が入ってくることが許せなかったのであり、人権と民主主義をめぐる対立は今回の侵略の中心的な要素だ。
権威主義国家側も人権規範を否定せず、むしろ自分たちの行動を正当化するために使っている。ロシアは侵略当初からウクライナ東部のロシア系住民を人権侵害から守るために立ち上がるのだと主張しており、人権規範を逆手にとって侵略行為を正当化した。中国でも
このことは、人権規範の国際社会での極めて高い正当性の証明でもある。元々、人権は国家がやりたい放題できず、外からの干渉を許すという意味で、国家にとって厄介な考え方だった。それが国際社会に定着したのは、人権の価値観が冷戦下で左右を問わず重視されるようになったからだ。その頃、米ソはお互いの国内における人権侵害を批判し合っていた。その対立の中で、多くの国々が、国際人権条約を批准し、市民社会においても国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」などの活動が活発になったことで、人権規範が国際社会全体に広がっていった。
もう一つ今回、顕在化した重要な点は、企業にとって人権意識が欠かせないことが分かったことだ。ロシアの侵攻後すぐに、欧米の企業がロシアでの操業を停止したり、撤退を決めたりした。一方、ユニクロはその判断が少しだけ遅れたために批判された。人権感覚を研ぎ澄ました企業経営をしないと、経営基盤にも影響を与えることがあり得るということだ。
そんな国際情勢の中で、日本は、リベラルな国際秩序をリードする役割を担えると思っている。戦後、軍事力を大きく強化しない形で、国際平和に積極的にコミットし続けてきたことで、培われた信頼がある。軍事力は限られていても、日本はリベラルな人権にコミットするアジアの民主主義国のリーダーとして、国際社会で影響力を持てるのではないか。
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